海外進出に活用できる補助金の種類|成功への具体的ステップも解説

本記事では、海外進出における補助金の種類や申請時の注意点、あわせてスタートアップ向けの支援プログラムなどを、幅広く解説します。
海外進出向け補助金・助成金の種類
海外進出に役立つ補助金や助成金には、事業の性質や目指す方向性に応じたいくつかの種類があります。
ここでは、海外展開支援型、技術開発・研究開発型、人材育成型といった主な枠組みについて、特徴や活用ポイントを確認します。どのような用途に資金を使えるのかを把握して、自社に最適な制度を見極めましょう。
海外展開支援型
海外展開支援型の補助金・助成金は、企業が海外でのマーケット拡大や販売チャネルの獲得などを目指す際に有効です。
たとえば海外向けに新製品やサービスを展開するときのPR費用や展示会出展費用、現地法人設立に伴う調査費などが支援対象となることがあります。実際には経産省やJETRO、都道府県など、公的機関が実施している場合が多く、募集要項や公募期間はその機関によって異なるので、しっかり確認しておきましょう。
上記のような海外展開支援型を上手に活用することで、市場調査などの初期コストを軽減し、海外ビジネスの足がかりを築きやすくなるメリットがあります。自社事業の計画段階から補助金適用の可能性を検討し、海外市場への進出リスクを低減することが大切です。
技術開発・研究開発型
技術開発・研究開発型は、新技術や新製品の開発を行う企業向けに設けられる補助金・助成金の枠組みです。
海外市場で勝負するには、独自性や競争優位性をもつ製品・サービスが重要となります。技術面の強化を後押しするための支援がこのカテゴリーにあたります。対象経費としては試作品の開発費や研究設備導入費、人件費などが含まれることが多く、技術力を高めることで海外需要に対応できる製品を完成させるためのサポートです。
海外進出に際しては、現地ニーズに合わせて製品やサービスをローカライズする必要がある場合も多く、開発コストを抑えるためにこれらの制度を活用するのは大変有効です。
人材育成型
人材育成型の補助金・助成金は、海外拠点の設立や海外法人との連携に伴い、新たに採用する人材や既存社員の教育・研修を行う際に活用されることがあります。
海外市場での事業拡大を成功させるためには、語学力や現地ビジネス習慣への理解、専門的な知識が欠かせません。こうした能力を持つ人材を確保することが難しい場合は、研修などを通じて育成する必要があります。
しかし、教育コストは意外に大きな負担となりますので、支援制度を活用できれば海外ビジネスの体制をスムーズに整えやすくなります。
海外対応人材の確保は海外進出を成功に導くうえで重要な要素ですので、こうした人材育成型の補助金や助成金があることを知っておくと、大きく活用の幅が広がるでしょう。
計画・ブランディング戦略のための補助金・助成金制度
海外進出を目指すうえでは、事前の計画策定やブランディング戦略がとても大切です。ここでは、具体的な制度を確認しましょう。
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(グローバル市場開拓枠)
通称「ものづくり補助金」と呼ばれる制度には、海外市場へ事業を展開する企業向けのグローバル枠が設けられています。
通常のものづくり補助金は国内の生産性向上や新製品開発を支援する側面が強いですが、グローバル枠では海外進出に関連する経費も補助対象となるのが特徴です。
具体的には、海外向けの製品開発コスト、海外市場調査費用、海外拠点の整備費用などが該当する場合があります。グローバル枠を利用することで、海外での事業拡大を後押しできる資金を確保しやすくなります。
ただし、補助金の公募要件や公募期間などは毎年変更となるケースがあるため、最新情報を常に確認することが大切です。
外国出願補助金(中小企業等海外出願・侵害対策支援事業費補助金)
海外でビジネスを展開する際、自社の知的財産権を保護することは不可欠です。
特許庁や自治体などが実施する、外国出願補助金(中小企業等海外出願・侵害対策支援事業費補助金)は、海外で特許や意匠、商標などを取得するための費用の一部を支援する制度です。海外でブランド力を確立し、模倣品への対処や訴訟リスクを回避するためにも、早期の特許出願やブランド登録は重要となります。
日本国内での権利化だけでなく、対象とする国や地域でも知的財産権を確保することで、長期的なビジネスの安定を図ることが可能です。
普及・実証・ビジネス化事業
普及・実証・ビジネス化事業は、JICA(国際協力機構)の支援事業の一つで、途上国や新興国などを主な対象としています。日本企業の技術や製品を海外市場で実際に導入し、普及・実証を行うための資金援助を受けることが可能です。
途上国や新興国にはインフラ不足や環境課題など、さまざまな社会課題が存在しますが、日本の先進技術によってそれらを解決することができれば大きなビジネスチャンスになります。
一方で、現地調整や設備導入に関わるリスクもあるため、支援制度の活用は特に意味が大きいといえます。
公的機関のサポートを受けながら海外進出を進めることで、社会課題解決とビジネス発展を同時に実現できる可能性が広がるでしょう。
技術協力活用型・新興国市場開拓事業費補助金
経済産業省やJETRO、JICAなどが連携して行う、技術協力活用型・新興国市場開拓事業費補助金は、現地パートナーとの共同開発や新しいビジネスモデルを構築する際に利用できる制度です。
たとえば海外企業や現地機関との協力体制を整え、現地ニーズに合わせたサービスや製品を生み出す場合に、開発費や現地調査費用が補助対象となることがあります。とくに新興国では、社会課題に対するイノベーションが強く求められており、日本企業の技術力が大いに役立つ場面が数多く存在します。
補助金を活用してリスクを抑えながら事業を進められれば、現地社会に貢献しつつ自社のグローバル展開を拡大できる点が大きな魅力です。
海外進出を発展させる融資・サポート制度
補助金や助成金だけでなく、海外ビジネスを加速させるためには融資やサポート制度の活用も重要です。
中堅・中小企業向けの融資制度や海外事業再編資金、そして海外見本市や展示会への出展費用をサポートしてくれる制度などを知っておくことで、資金調達や販路開拓を効果的に進めることができるでしょう。
中堅・中小企業向け融資
日本政策金融公庫や商工中金などの公的金融機関では、海外進出を目指す中堅・中小企業向けに融資枠を設けることがあります。海外拠点の設立費や運転資金、設備投資などに充てられるケースが多く、低金利や返済期間の柔軟性など、企業にとって有利な条件が設定されている場合もあります。
融資は補助金・助成金とは異なり返済義務がありますが、一時的に大量の資金を確保する手段としては大変有用です。
とくに海外ビジネスは、想定外のコストが発生しやすい特徴がありますので、安定したキャッシュフローを維持するためにも、こうした公的融資の可能性を常に検討しておくとよいでしょう。
海外展開・事業再編資金
国内市場が縮小傾向にあることや、新たなビジネスモデルの構築が迫られる事例が増えるなか、海外進出や事業再編を同時に進めようとする企業も少なくありません。
上記のような企業向けに、政府系金融機関や都道府県・市区町村などの地方自治体が独自の融資制度や補助制度を設けるケースがあります。海外子会社や合弁会社の設立、国内外事業の統合など多岐にわたるプロジェクトに対応できるため、申請前に対象となる条件を十分にチェックすることが重要です。
また、事業再編と海外進出が絡むと、手続きが複雑になる可能性があるため、専門家によるサポートも検討すると安心でしょう。
海外見本市・展示会出展支援
海外見本市や展示会に出展することは、製品やサービスを海外バイヤーやパートナーに直接アピールする絶好の機会です。
ただし、渡航費や出展料、ブースの装飾費など、さまざまなコストがかかります。費用負担を軽減するために、地方自治体や商工会議所、JETROなどが海外展示会出展に関する補助金や助成金、あるいは共同出展支援プログラムを実施している場合があります。
制度を活用すれば、大規模な展示会へ参加しやすくなるだけでなく、現地企業や他国の出展企業とのネットワーク構築が期待できるでしょう。
また、JETROの海外ビジネスサポートでは、海外見本市の情報提供や商談アレンジなど多面的な支援を受けられるケースがあり、大きな成果につながることが多いです。
海外進出の資金調達を支援する制度
補助金や融資に加えて、資金調達をより柔軟に行うための支援制度も存在します。
ここではスタンドバイ・クレジット制度、特定信用状関連保証、ファンド出資の3つを中心に解説します。それぞれのメリットや手続きの流れを把握しておけば、海外ビジネスの資金繰りを多方面からバックアップできるでしょう。
スタンドバイ・クレジット制度
スタンドバイ・クレジット制度とは、政府系金融機関などが海外取引における支払い保証を行う仕組みです。日本企業が海外企業と取引する際、信用力の問題で取引が滞ることを回避するために活用されます。
たとえば、海外企業との契約で一定額の保証を求められる場合、日本側の金融機関が保証人となる形をとることで、現地企業からの信頼を確保し、スムーズな契約締結や支払い決済が可能です。とくに、取引先が初めての海外企業である場合や、現地の商習慣が日本と大きく異なるケースでは、保証制度が非常に大きな安心材料となります。
特定信用状関連保証
輸出や輸入を行う際に発行される信用状(L/C:Letter of Credit)に関連した保証制度があります。銀行が信用状を発行する際、輸出入取引の信用リスクを補完する仕組みです。
海外ビジネスでは、相手先企業の信用状況が把握しきれず、支払いリスクがつきまとうことも少なくありません。特定信用状関連保証を利用すれば、輸出入取引の資金決済が円滑になり、キャッシュフローの面で安定を図ることができます。
とくに高額取引や長期契約の場合、資金リスクを最小化できる手段として覚えておくと役立ちます。
ファンド出資
海外事業の拡大に際しては、ファンドによる出資を受ける方法も視野に入れるとよいでしょう。ベンチャーキャピタルや政府系ファンド、地域性に特化したファンドなどが、海外進出を目指す企業に投資を行うケースがあります。
投資を受けることで、資金面だけでなく、ファンドが有するビジネスネットワークやノウハウを活用し、海外現地でのパートナー探しやマーケティング活動を加速させることが可能です。
ただし、出資を受けるにあたっては企業の株式を譲渡することになる場合があるため、経営戦略やファンドとのビジョンの一致が欠かせません。
補助金・助成金申請時の注意点
補助金・助成金を申請する際には、公募条件の確認や審査への備え、交付時期の把握などに注意しましょう。
以下では、注意点を詳しく解説します。
申請要件と公募期間
補助金・助成金は、各制度ごとに対象となる事業規模や業種、事業目的などの申請要件が細かく定められています。
また、公募期間も限られており、年度ごとにスケジュールが変わるため、常に最新情報をチェックすることが欠かせません。要件を満たさないと書類審査で落とされてしまいますし、公募期間を逃すと次回の募集まで待たなければならないケースもあります。
海外進出に関わる計画は長期的に進められることが多いため、補助金の公募時期に合わせてスケジュールを組むなど、計画的な準備が大切です。
審査
審査では、事業計画の具体性や収益性、雇用創出効果などがチェックされる場合があります。海外進出においては、現地の市場規模やニーズに対してどのようにアプローチするかが重要視されることも多いです。
また、社会的課題の解決につながるか、他社との差別化ポイントは何かといった面も評価対象となり得ます。審査基準を事前に把握し、自社の強みやビジネスモデルをわかりやすく説明できる書類作成が大切です。
必要書類を揃える際は専門家のチェックやアドバイスを受けることで、より説得力のある申請資料を整備しやすくなります。
交付時期
補助金・助成金は採択されても、実際に交付される時期が申請後すぐではない場合がほとんどです。公募から採択、交付決定、そして実際の支払いに至るまで、数か月以上かかることも珍しくありません。
事業を円滑に進めるためには、時間差を考慮した資金繰りが必要です。
とくに海外へ社員を派遣したり、現地法人を設立したりといった初期費用は、まとまった資金が必要になるケースが多いので、交付時期を見越したキャッシュフロー管理を怠らないようにしましょう。
使途制限と返還義務
補助金・助成金には、使途が厳しく定められていることが多いです。規定以外の用途に資金を使った場合、後から返還を求められるリスクもあります。
また、事業計画に変更が生じた場合は、速やかに管轄する機関に相談し、手続きを踏むことが求められます。使途制限を守らなかったり、虚偽報告を行ったりすると、不正受給と判断され、今後の公的支援を受けられなくなる可能性もあるため注意が必要です。
海外進出は変数が多い分、事業計画変更が起こりやすい状況なので、適切な連絡と対応を常に意識しましょう。
補助金と助成金の違い
補助金と助成金は混同されることが多いですが、一般的には審査や選考プロセスが明確にあるかどうかが大きな違いといえます。補助金は公募に応じて応募し、厳正な審査を経て採択されるのが通常です。
一方、助成金は要件を満たせば基本的に受給が可能な場合が多いです。
ただし、海外進出関連の支援制度では、補助金・助成金いずれにも審査があるケースも存在するため、一概に区別できないこともあります。申請前に各制度の条件や審査基準をよく確認することで、混乱を避けるようにしましょう。
スタートアップ企業を後押しする支援プログラム
新興企業やベンチャー企業が海外市場へチャレンジするケースは年々増えています。スタートアップを後押しするために、各種の支援プログラムが用意されています。
ここでは、支援プログラムの種類と支援プログラム活用の注意点に分けて、スタートアップ特有のメリットや留意すべき点を確認しましょう。
支援プログラムの種類
スタートアップ向けの支援プログラムには、ビジネスコンテストやアクセラレータープログラム、インキュベーション施設の提供などが含まれます。海外進出に特化したプログラムもあり、海外の投資家や現地企業とのマッチングイベントが定期的に行われるケースも少なくありません。
たとえば、日本のスタートアップを海外に送り込み、現地での資金調達や市場テストをサポートする取り組みや、海外政府系機関が誘致目的で提供する支援プログラムなどが挙げられます。
プログラムに参加することで、語学面や法務面のサポート、異文化コミュニケーションの知識などを得られるメリットも期待できます。スタートアップにとっては、資金援助だけでなく、有力なメンターやネットワークを得られる点が大きな魅力です。
支援プログラム活用の注意点
スタートアップ支援プログラムは多くの場合、書類選考やプレゼンテーション審査などが行われ、参加企業が限られます。さらに、プログラム参加後に資金調達や事業成長が見込めない場合は、途中離脱せざるを得ないケースもあるため、事業計画の明確化が不可欠です。
プログラムによっては持株比率に関する交渉や、知的財産の共有などを求められる場合がある点も注意が必要でしょう。海外進出を成功させるうえで、スタートアップ向け支援は大きなチャンスとなる一方、契約条項や共同開発のスキームを十分に理解し、リスクを把握することが重要です。
自社の目標や経営戦略と合致しているかを見極めつつ、プログラムを有効に活用しましょう。
まとめ
海外進出においては、市場調査や現地法人の設立、製品開発、人材育成など、多くの資金と準備が必要になります。そこで活用が期待されるのが補助金・助成金や融資制度、信用保証、ファンド出資といった公的支援です。
上記を組み合わせれば、初期コストやリスクを抑えつつ、海外ビジネスを安定的に進めることができます。
ただし、申請要件や審査のポイント、交付時期などの手続き面での注意を怠ると、せっかくのチャンスを逃す可能性もあります。自社の事業計画と合致した制度を見極め、スタートアップ支援プログラムなども含めた多角的なサポートを受けながら、確実に海外進出を成功へと導きましょう。
監修者

岩﨑 正隆 / 代表取締役
福岡県出身。九州大学大学院卒業後、兼松株式会社にて米国間の輸出入業務や新規事業の立ち上げ、シカゴでの米国事業のマネジメントに従事。帰国後はスタートアップ企業にて海外事業の立ち上げを経験。自らのスキル・経験を基により多くの企業の海外進出を支援するために、2023年に株式会社グロスペリティを設立。