中小企業における海外進出の成功戦略|課題と支援策

本記事では、国内市場に依存せずに成長を実現している企業の共通点や、実際の成功事例をもとに、海外展開に必要な準備・課題・支援制度を体系的に整理します。進出を検討するうえで避けて通れない要素を包括的に捉え、自社にとって最適な戦略を描く一助となる情報を提供します。
中小企業が海外進出を検討すべき理由
グローバル市場への参入を検討する中小企業にとって、なぜいま海外展開が必要なのかを理解することは最初のステップです。国内市場の構造的課題と海外の成長余地を客観的に把握したうえで、判断材料とする必要があります。
日本市場の縮小と人口減少
経済成長が長期間停滞している日本では、今後も消費市場の縮小が避けられないと予測されています。
内閣府の将来推計によれば、総人口は今後数十年にわたり一貫して減少し、生産年齢人口も比例して減っていく見通しです。需要そのものが小さくなる構造的変化は、国内事業の安定成長を難しくしています。
新たな売上源を探す上で、海外市場への進出は視野に入れるべき現実的な手段となっているのです。国内にとどまる選択肢が将来的な縮小戦略と同義であるならば、外部環境を受け入れ、積極的な外向きの戦略へと舵を切る企業が今後の生存競争を制すると考えられます。
アジア新興国の市場拡大
アジア圏を中心とする新興国の経済成長は著しく、とくにインドや東南アジア諸国は世界の中でも高いGDP成長率を記録しています。こうした国々では、中間所得層の増加により購買力が年々向上しており、消費市場の規模拡大が加速しているのです。
たとえば南アジアでは、2024年の成長率が6%を超えるとの見通しもあり、製品やサービスのニーズも多様化の一途をたどっています。高品質な日本製品への信頼も厚く、供給者としての優位性を活かすチャンスが広がっている状況です。
成熟しきった国内とは異なり、発展段階にある市場への参入は、成長ポテンシャルを享受する手段となり得ます。
日本企業の技術・品質は通用する
長年にわたり国内外で信頼を築いてきた日本企業の製品は、耐久性や精度、仕上がりの丁寧さといった点で評価されています。とくに製造業では、微細な加工技術や高い検品基準が差別化の決定打となり、現地での販売力強化につながるケースが増えています。
たとえば中国やベトナムでは、日本製の精密部品を求める現地企業が多く、日本ブランドそのものが競争優位性となっているのです。技術面における国際的信頼は、他国の模倣が困難であるがゆえに持続的な優位を生み出します。
上記のような強みを活かし、付加価値型ビジネスとして展開すれば、価格競争に巻き込まれるリスクも抑えられます。
外資企業の参入と国内競争の激化
日本国内における外資系企業の参入は年々増加し、価格やスピードの面で従来の日本企業を凌駕するケースも出てきています。とりわけ小売・IT・食品などの分野では、積極的なM&Aや低価格戦略により、国内企業の市場シェアが浸食されつつあるのです。
競争環境下では、内需に依存したビジネスモデルは安定性を欠く可能性が高くなります。国内競争の激化に備える意味でも、海外という「第二の市場」を持つことがリスク分散につながるでしょう。
外資との競争を避けるための受け身の戦略ではなく、主体的に海外需要を取り込む姿勢が重要とされる時代です。
中小企業の海外進出における主な課題
海外市場への進出には多くの魅力が存在しますが、実行にあたっては明確な課題も伴います。準備不足で挑んだ場合には、想定外のコストや失敗に直面するリスクもあります。
現実的な障壁を事前に把握し、的確な対策を講じることが求められます。
海外向けの人材不足と語学の壁
グローバル展開に不可欠な要素として、現地事情に精通した人材の存在が挙げられます。
しかしながら、多くの中小企業では国際業務を担える社員が限られており、海外担当を任せられる人材を社内で確保できない状況が見られます。語学力はもちろん、文化的背景や現地の商習慣への理解も求められるため、社内教育のみで対応するには限界がある場合もあるでしょう。
人材育成には時間とコストを要するため、外部研修の活用や専門家の招聘などを通じて対応力を高める戦略が必要です。自社にノウハウを蓄積することで、中長期的には海外ビジネスを継続可能な形へと変えていくことが可能です。
販路・顧客の獲得が難しい理由
海外市場で製品を販売するには、信頼できる販売チャネルや現地パートナーの確保が不可欠です。
ところが、取引相手の見極めは簡単ではなく、予期せぬトラブルに発展する例も報告されています。現地の小売業者や代理店との契約交渉では、言語や法規制の違いが障害となりやすく、意思疎通の齟齬から商談が破談することもあります。
さらに、文化や商習慣の違いが原因で、商品価値が正しく伝わらないケースも少なくありません。こうした課題を乗り越えるには、展示会や業界イベントなどへの出展を通じて、信頼関係を構築することが効果的です。
着実に取引基盤を築く努力が、長期的な販路拡大につながります。
信頼できる現地パートナーの確保
現地法人の設立や流通網の確保を検討する中で、最も重要な成功要因となるのが協業先の選定です。現地事情に精通し、継続的にビジネスを展開できるパートナーが存在するかどうかで、事業の安定性が大きく変わります。
一方で、情報不足により信頼性に欠ける事業者と契約してしまうリスクも無視できません。失敗を避けるには、第三者機関や公的機関が提供する審査情報や現地調査を活用することが有効です。
また、単発の関係ではなく、将来的な協働の可能性を見越した戦略的提携を構築する視点も欠かせません。リスクヘッジと成果最大化を両立するために、現地パートナー選定には慎重な準備が求められます。
為替変動・法規制リスク
為替相場の変動や関税制度の変化は、企業収益に直接影響を与えるファクターです。とくに新興国市場では政治的な不安定要素が存在することもあり、通貨の急落や制度改正により事業継続が困難になるケースも報告されています。
加えて、国によっては外資規制や最低出資要件といった特有の法制度が存在し、進出時の手続きに多大な労力を要することもあります。リスクを見越した事業設計が重要となり、事前にリスクマネジメント策を講じておくことが推奨されるでしょう。
現地弁護士や会計士との連携を強化し、法制度や税務に関する正確な知識を得ることが、リスク回避と事業の成功につながります。
海外進出に成功した中小企業の事例
実際に海外進出を果たし、成果を上げている中小企業の取り組みは非常に参考になります。業種や進出国は異なっても、成功企業に共通するポイントには一定の傾向が存在するのです。
ここでは複数の実例をもとに、成功要因を深掘りします。
アンデス電気|製造から販売特化へシフトで成功
精密機器分野で実績を持つアンデス電気は、製品そのものではなく販売体制に特化する戦略で海外展開を進めました。かつてはフィリピンや中国における現地生産に挑んだものの、人件費の高騰などにより生産面からの撤退を余儀なくされたのです。
そこで、同社は現地製造に依存しない販売中心の展開へと方向転換を図りました。販売拠点を通じた直販体制を構築し、日本発の技術を軸に現地ニーズに合った提案営業を強化したことが成果につながりました。独自の光触媒技術を前面に押し出し、ブランド力の確立に成功しています。
事業領域を絞り、専門性の高いポジショニングを取ったことで、現地市場での差別化と安定した売上確保を実現しました。
ベアレン醸造所|専門家活用と欧州市場で販路拡大
クラフトビールを製造するベアレン醸造所は、地元岩手で長年親しまれてきた伝統を活かし、海外市場への挑戦に踏み切りました。
進出にあたっては専門機関の支援を受けながら、販売戦略と販路構築を同時に進めた点が特徴的です。とくに、日本貿易振興機構(JETRO)からの情報提供やパートナー紹介が大きな後押しとなり、オーストラリアなどの市場で実際の販売に結びつきました。
また、製品の品質や独自の醸造方法が評価され、差別化されたブランドイメージの形成に成功しました。専任の担当者を設け、海外向けの販促物や説明資料を丁寧に準備したことで、輸出業務に対する不安や不備を最小限に抑えることができたのです。
社内体制と外部資源のバランスを上手に取り入れた取り組みが結果につながった好例でしょう。
エーエスジェイ|CSR起点でインドネシア進出
水処理機器を製造・販売するエーエスジェイは、社会課題を切り口にしたCSR活動を軸に、海外市場へ参入しました。初動では収益を求めるのではなく、現地の教育機関に無償で浄水設備を導入し、地域への貢献を重視したアプローチを採用しています。
上記の実績がメディアや現地政府に取り上げられたことで、企業認知が飛躍的に向上しました。現地パートナーとの信頼関係も構築され、結果的に同国における販売拠点の設置と販路拡大へとつながりました。
特筆すべきは、CSR活動を通じて現地住民による継続的なメンテナンス体制を整備した点です。単なる技術提供に留まらず、現地定着型のビジネスとして展開したことで、持続的な収益モデルの確立を可能としました。
価値共創型の展開が、競合との差異化に貢献しました。
地方中小企業が活用した補助金・支援制度の実例
中堅規模のリソースに限りがある地方中小企業でも、補助金や公的支援制度を活用することで海外進出を現実のものとしています。
たとえば、伝統工芸や地方産品を海外向けにリブランディングし、販路を獲得したケースでは、「JAPANブランド育成支援事業」が成果につながっています。海外展示会の出展費用や市場調査費用の一部が補助対象となり、初期コストの軽減に大きく寄与しました。
また、販路開拓にあたっては、商工会議所や金融機関、地域支援団体と連携したことで、リスクを分散しながら現地展開を進めることができました。外部の力を借りて仕組みを整えたうえで、独自性ある製品を武器に海外の競合と渡り合った点が特徴です。
制度活用に対する柔軟な姿勢が明暗を分けた事例でしょう。
海外進出を実現するための準備とステップ
グローバル展開を成功させるには、明確な準備と段階的な実行が欠かせません。計画なき挑戦は失敗の確率を高めます。
各ステップごとに注意すべきポイントを整理することで、現実的な進出プロセスが見えてきます。
市場調査・現地ニーズの把握方法
海外ビジネスの第一歩は、対象市場の正確な理解から始まります。現地で何が求められているか、どのような商習慣があるか、どの製品カテゴリーが成長しているかを具体的に把握することで、進出の確度を高めることができます。
自社製品やサービスが競合と比較して優位に立てるのか、価格帯は妥当かといった点も含めて検討することが重要です。手段としては、現地の展示会参加や政府系機関が提供する統計資料の活用、ジェトロや商工会議所の支援を受けた調査が有効でしょう。
とくにBtoBの場合は、業界紙・専門誌などを通じた情報収集も効果的です。調査に基づいた意思決定が、戦略的な展開の成否を分ける要素になります。
進出先の選定と拠点設立ステップ
海外展開における進出国の選定は、事業の成否を左右する極めて重要な要素です。
経済成長率、市場規模、親日性、外資規制、現地通貨の安定性といった複数の観点から比較検討することが不可欠です。ベトナムやタイなどの東南アジア諸国は、日本からの進出実績も多く、一定のノウハウが蓄積されています。
進出国が決まったあとは、現地法人の設立手続きに入ります。現地の法規制に沿った形で会社登記を行い、口座開設、ライセンス取得、人材採用といった段取りを進めましょう。
スムーズな手続きのためには、現地の法律事務所やコンサルタントとの連携が欠かせません。拠点設立においては、コスト・管理のしやすさ・事業展開の柔軟性を見極め、事業の中核拠点として機能する体制を整備することが求められます。
海外展開人材の育成と社内体制構築
海外事業を継続的に推進していくには、社内に専門人材を育てる体制を構築する必要があります。語学スキルや法務・商習慣の知識だけでなく、現地文化への理解、トラブル時の対応力など幅広い能力が求められます。
短期的には外部専門家の支援を活用しながら、並行して自社内での人材育成を進める体制が理想です。たとえば、ジェトロが実施する中小企業向けの海外ビジネス研修に参加させることで、基礎的な知識の習得が可能になります。
さらに、部署横断で海外事業に対応できるプロジェクトチームを編成することで、リスク分散と情報共有の強化が図れます。現地対応だけでなく、国内との連携体制を整えておくことで、トラブル時の対応や意思決定の迅速化にもつながるでしょう。
ジェトロや中小機構など公的支援の活用方法
中小企業にとって海外進出は資金・情報・人材の面で負担が大きくなりがちですが、国の支援制度をうまく活用することでその負担を大幅に軽減可能です。たとえば、日本貿易振興機構(ジェトロ)は海外市場に関する調査、展示会出展の支援、商談のマッチングなどを無料または低コストで提供しています。
また、中小企業基盤整備機構では「海外ビジネス戦略推進支援事業」など、事業フェーズに応じたサポートを展開しています。支援機関と接点を持つことで、自社の課題に合った専門家の紹介や補助金の申請支援を受けられる可能性もあるのです。
各制度の対象条件や申請時期には注意が必要ですが、情報収集を怠らなければ大きな武器として活用することができるでしょう。
中小企業が利用できる支援制度と成功へのポイント
海外展開を具体化する際、支援制度の活用は中小企業にとって強力な後押しになります。実際に支援策を使いこなしている企業は、そうでない企業と比較して進出のスピードと成果の面で大きな差を出しているのです。ここでは代表的な支援内容と成功の勘所を整理します。
補助金・助成金(JAPANブランド育成、現地進出支援事業など)
海外展開にかかる初期費用やプロモーションコストは、中小企業にとって大きな負担となります。資金面の課題を軽減する手段として有効なのが、補助金や助成金の制度です。
たとえば、「JAPANブランド育成支援等事業」では、現地での商品改良、ブランディング、テストマーケティングといった活動に対して支援が行われます。
また、「海外展開支援強化事業」などでは、展示会への出展費用や現地ミッション派遣に関する支援も受けられます。制度は費用の一部を補填する形で提供され、自己負担の軽減によって、より早い意思決定が可能です。
申請にはスケジュールや要件の確認が必要ですが、戦略的に活用することで進出リスクを最小限に抑えることができます。
ジェトロや中小機構の個別サポート
海外進出に向けた情報収集から現地展開後の定着支援までを包括的にサポートしているのが、ジェトロ(日本貿易振興機構)や中小企業基盤整備機構です。
公的機関は、企業の進出ステージごとに応じた個別相談やアドバイザー派遣を行っており、無料で高度な専門支援を受けることが可能です。たとえば、現地バイヤーとの商談セッティングや通訳の手配、販路先企業のリストアップまで手厚い支援が提供されています。
また、法務や税制などの専門分野に関するアドバイスも受けられるため、自社だけでは対応が難しい部分をカバーする役割を担っています。情報収集やリスクヘッジの観点からも、早期に相談窓口と接点を持っておくことが進出成功において重要です。
新輸出大国コンソーシアムの支援内容と活用例
複数の支援機関が連携して提供している「新輸出大国コンソーシアム」は、ワンストップ型の支援体制が特徴です。
とくに輸出や現地法人設立に不安を抱える中小企業にとって、戦略立案から実行支援までを一気通貫でフォローしてもらえる点が大きなメリットです。コンソーシアムを通じては、ジェトロの専門家による戦略アドバイスの提供、海外展示会への同行支援、現地企業とのマッチング支援などが活用できます。
実際に、この支援を通じて販路拡大に成功した地方企業も数多く存在します。専門性の高い知見と国際ネットワークを活かすことで、限られたリソースでも最大限の成果を引き出すことが可能です。利用実績が豊富な制度だからこそ、積極的に窓口へアクセスする姿勢が求められます。
相談先・連携すべきパートナーの選び方
海外進出は単独で完結できるプロジェクトではありません。信頼できる相談相手や実行支援パートナーの存在が、進出の成否を大きく左右します。たとえば、金融機関や地方自治体、業界団体は、現地情勢に関する情報を持っていたり、販路先とのつながりを有している場合があります。
また、海外進出経験を持つ他企業とのネットワーク構築も大きな意味を持つでしょう。必要な場面では、税理士・会計士・弁護士など専門家の力を借りることも検討すべきです。
ポイントは、各分野で信頼性と実績を持つ機関・人物を早期に見つけて関係を築くことです。自社だけで抱え込まず、適切な外部資源と手を組むことで、未知のリスクを軽減しながらスピーディーな展開を実現できます。
まとめ
中小企業が海外市場に挑む際には、明確な戦略と段階的な実行が不可欠です。競争の激しい環境を乗り越えるためには、自社の強みを活かしつつ、現地のニーズに合わせた柔軟な対応が求められます。
実際に成果を上げている企業の多くは、信頼できるパートナーとの連携や公的支援の活用によって、進出リスクを低減しています。市場調査から人材育成、制度利用までを一貫して行うことで、限られたリソースでも十分に成果を出すことが可能です。
国内にとどまらず、成長市場に向けた挑戦を現実のものとするために、今回の内容を実行戦略の出発点として活用してください。
監修者

岩﨑 正隆 / 代表取締役
福岡県出身。九州大学大学院卒業後、兼松株式会社にて米国間の輸出入業務や新規事業の立ち上げ、シカゴでの米国事業のマネジメントに従事。帰国後はスタートアップ企業にて海外事業の立ち上げを経験。自らのスキル・経験を基により多くの企業の海外進出を支援するために、2023年に株式会社グロスペリティを設立。