アメリカで事業をする際に知っておきたい税金の知識

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最近は、インフレや政府の財政政策の影響で、税制が変わる可能性も増えています。
アメリカで事業をするならば、税金の仕組みをしっかり理解しておくことが重要でしょう。
アメリカには、会社にかかる税金だけでなく、州ごとの税金や従業員を雇う際の税金など、さまざまな種類の税金が存在します。また、日本とアメリカの間には「租税条約」があり、条約を活用すると税金を抑えられる場合もあります。
本記事では、アメリカで事業をする際に必要な税金の基礎知識を解説します。
税金のポイントを押さえて、アメリカでのビジネスをスムーズに進めましょう。
連邦法人税
アメリカでは、会社の形態によって連邦法人税のかかり方が異なります。
<主な法人形態3つ>
・C-Corp(株式会社)
・S-Corp(小規模法人)
・LLC(合同会社)
それぞれ見ていきましょう。
C-Corp(C Corporation)
C-Corpは、一般的な株式会社の形態で、会社として独立した法人とみなされます。
会社の利益に対して「21%」の法人税が課され、さらに配当金を受け取る株主も個人所得税を支払う必要がある(二重課税) という仕組みです。
ただし、大企業にとっては資金調達がしやすく、成長を前提としたビジネスに適しています。
S-Corp(S Corporation)
S-Corpは、C-Corpとは異なり「パススルー課税」が適用されます。
これは、会社自体には法人税がかからず、利益や損失がオーナー(株主)の個人所得として申告される仕組みです。
そのため、二重課税を回避できるメリットがあります。ただし、「株主の人数が100人以下」「外国人株主は認められない」などの制約があります。
LLC(Limited Liability Company)
LLCもS-Corpと同じく「パススルー課税」が適用され、会社として法人税を支払う必要はありません。
利益はオーナーの個人所得として課税されるため、税負担を抑えつつ、法人としての責任限定が得られるのが特徴です。
LLCは設立や運営の自由度が高く、小規模ビジネスに人気があります。
どの法人形態を選ぶかによって税負担や事業の運営方法が変わるため、慎重に検討しましょう。
州法人税
アメリカでは、連邦法人税だけでなく、各州ごとにも法人税が設定されています。
州ごとに税率や計算方法が異なるため、会社を設立する州の税金制度についてしっかりと事前調査が必要です。
たとえば、ワイオミング州やサウスダコタ州では法人税が「0%」ですが、カリフォルニア州では「8.84%」、ニューヨーク州では「6.5%」と高めの税率になっています。
法人税が「0%」の州でも、代わりに「フランチャイズ税」や「事業所得税」といった別の税金がかかる場合があるので注意が必要です。
また、州によっては法人税の計算方法が異なり、売上高に応じた課税方式を取っているところもあります。たとえば、テキサス州では利益ではなく「売上」に基づいて税金が決まります。
アメリカでビジネスをするなら、どの州の税金制度が自分の事業に合っているかをよく調べておきましょう。
そのほかの押さえておきたい税金
会社を運営する際には、法人税以外にもいくつかの押さえておきたい重要な税金があります。
<押さえておきたい3つの税金>
・売上税(Sales Tax)
・給与税(Payroll Tax)
・自営業税(Self-Employment Tax)
それぞれ見ていきましょう。
売上税(Sales Tax)
アメリカでは、消費税のような全国共通の税金はなく、州や市ごとに「売上税」が設定されています。
たとえば、カリフォルニア州の売上税は「7.25%」ですが、地域によっては「10%」を超えることもあります。
また、2018年のWayfairの裁判により、オンラインショップなども売上税を徴収することが義務づけられました。
事業をする州や販売エリアによって税率が異なるため、しっかりと確認しておきましょう。
給与税(Payroll Tax)
従業員を雇うと、会社は給与税を支払う必要があります。
具体的には、「社会保障税」や「メディケア税」を、雇用者と従業員の両方で負担します。
さらに、「失業保険税」も支払わなければなりません。
給与税は毎月の給与支払いと同時に計算・納付するため、適切な管理が大切です。
自営業税(Self-Employment Tax)
個人事業主やLLCのオーナーには、自営業税がかかります。
これは、会社員が給与から天引きされる社会保障税やメディケア税を、自営業者自身が負担する形の税金です。
通常の会社員が負担する割合よりも高く、合計で「15.3%」の税率になります。
ただし、一部控除を受けることで税負担を軽くできます。
日米租税条約について
日本とアメリカの間には、「租税条約」という取り決めがあり、両国での二重課税を防ぐためのルールが定められています。
たとえば、日本の企業がアメリカでビジネスを行う場合、適用条件を満たせば、アメリカでの税負担を軽減できることがあります。
また、日本の居住者がアメリカから配当や利子を受け取る際、通常より低い税率が適用される場合も少なくありません。
租税条約を活用するには、事前に申請手続きを行う必要があり、適用条件を満たしているか確認が必要です。
事業の規模や形態によって適用範囲が異なるため、専門家に相談するのがおすすめです。
確定申告での注意点
アメリカでは、事業形態によって確定申告の時期や方法が異なります。
申告期限を守らなかった場合、延滞税や罰則が発生するため注意しましょう。
また、経費の計上や控除の適用ルールを正しく理解し、申告ミスを防ぐことが大切です。
日本と同様に、正確な記帳を行い、必要な書類をしっかり準備しておくと安心かつスムーズに確定申告ができます。
確定申告の時期
アメリカで事業をする場合、確定申告の「期限」は事業形態によって異なります。
・C-Corp
→ 4月15日が申告期限(ただし会計年度が異なる場合は調整あり)
・個人事業主(Sole Proprietor)やLLC
→ 4月15日が申告期限(週末の場合は翌営業日)
・パートナーシップ(Partnership)やS-Corp
→ 3月15日が申告期限
※法人形態がLLCでも、税務上の分類の違いで申告書類が異なり、申告期限も変わるので注意しましょう。
期限までに申告できない場合は、延長申請(Form 7004)をIRS(アメリカ国税庁)に提出すれば6か月の延長が可能です。
ただし、延長できるのは申告期限のみで、税金の支払いは延長されません。
納税が遅れるとペナルティが発生するため、期限内に必要な金額を納めるようにしましょう。
年4回の予定納税
アメリカでは、一定の所得がある事業者は、年に4回の予定納税(Estimated Tax Payment)を行う必要があります。
これは、1年分の税金を前払いする仕組みで、個人事業主やLLC、S-Corpのオーナーなど、給与から税金が天引きされない事業者が対象です。
予定納税の支払いスケジュールは以下の通りです。
・第1回:4月15日(前年の1~3月分)
・第2回:6月15日(前年の4~5月分)
・第3回:9月15日(前年の6~8月分)
・第4回:翌年1月15日(前年の9~12月分)
予定納税を怠るとペナルティが科されることがあるため、事前に概算を計算し、適切な額を納めることが大切です。
正確な金額がわからない場合は、前年の納税額を基準にして計算するとよいでしょう。
まとめ
アメリカで事業をするなら、法人税だけでなく、売上税や給与税、自営業税など、さまざまな税金を理解することが重要です。州によって税率やルールが異なるため、事前に調べておくことで税負担を最適化できます。
また、日米租税条約を理解し活用すれば、税金を抑えることも可能です。
確定申告や予定納税のスケジュールも押さえて、計画的に納税を行いましょう。
どうしても不安な場合は、税務に関しての専門家に相談することも大切です。
正しく申告や納税を行い、アメリカでのビジネスを成長・成功させましょう。
監修者

岩﨑 正隆 / 代表取締役
福岡県出身。九州大学大学院卒業後、兼松株式会社にて米国間の輸出入業務や新規事業の立ち上げ、シカゴでの米国事業のマネジメントに従事。帰国後はスタートアップ企業にて海外事業の立ち上げを経験。自らのスキル・経験を基により多くの企業の海外進出を支援するために、2023年に株式会社グロスペリティを設立。